最高裁判所第二小法廷 昭和29(オ)891 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
論旨は、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和
二五年五月四日法律一三八号)一号ないし三号のいずれにも該当せず、又同法にい
わゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとは認められない(上告代理
人長谷川正明同牧瀬幸の上告理由第一点は結局原判決がその理由前段において訴外
Dを本件金融の斡旋者となしながら、その後段において同訴外人を本件金員の貸主
としたのは理由齟齬の違法があるというに帰する。しかし、原判決が本件手形によ
る金融成立に至る経緯において被上告会社が前記Dに金融斡旋を依頼した事実を認
定したからといつて右金融が被上告会社と右訴外人との間に成立したことを認定す
ることを何等妨げるものではないから、原判決には所論の違法は認められない。又
同第二点は原判決には判断遺脱の違法があるというにあるが、原判決は、被上告会
社が本件手形により金融をうけるについて担保として提供した被上告会社第六回増
資株式申込証拠金領収証、株券受領証、株式名義書換白紙委任状はすべて偽造物で
ある旨の上告人の主張を認め得ないと判示し、これを前提とする不法行為による上
告人の損害賠償請求を排斥しているのであつて、一のロおよびハ所論の主張事実は、
原判文上必ずしも右の原判示の結論に影響を及ぼすものとは認められない)。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官小谷勝重の左
記少数意見を除き、裁判官一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官小谷勝重の少数意見(論旨第二点に対する)は次のとおりである。
原判決は、(1)被上告会社は、本件手形はその受取人であり第一裏書人である
訴外Dの背後に一人または数人の金主があり、したがつて手形はDより当然それら
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の人に裏書移転され、同時にまた本件担保物件もその金主たる手形権利者に交付さ
れるものであることを予想しておつたというのであり、(2)更に本件担保物件た
る被上告会社の第六回増資株式申込証拠金領収証(払込期日に至らばこの証拠金は
当然株式払込金にそのまま払込充当され、その後は株金払込領収証としてそれに代
用されるもの)、株券領収証(右株金払込領収証としてこれと引換に新株券の交付
を受け得べきもの)、株式名義書換白紙委任状(右新株主はその新株券受領の際そ
の欲する第三者名義に書換え得るためのもの)の一連の証書類はその担保として交
付された当時、上告人(控訴人)主張の如き二重発行の無効のもの(上告人のいわ
ゆるイミテーションで無効のもの)ではなかつた事実(すなわち有効のものであつ
た事実)、(3)並びに本件手形はその融資を受ければ、被上告会社では当然これ
をもつて新株式の払込金に充当されるものであること、の各事実を認定しているの
である。
そうだとすると、本件手形債務それ自体は手形と引換に弁済せられた以上、手形
債務は消滅するものであり、その限りにおいては原判決の判断は正当であるけれど
も、被上告会社としては、本件債務関係を完全に決済するにはたゞ単に手形だけで
なく、それと不可分の関係にある担保権の設定契約による担保物件の回収と引換に
決済するにあらざれば、これがためDの背後にある真の手形権利者すなわち担保権
者に不測の損害を与えるかも知れない事実を十分に予想し認識し得た関係にあるも
のといわなければならない。このことは本件の担保物件が株券またはその他の動産
であつた場合を考えればその理は一層明瞭であるというべきである。
しからば、たゞ単に主たる手形債務が消滅した以上、債務者たる被上告会社はも
はや何等の責任なく、爾余の問題はD対金主たる上告人間との関係であるとの原判
決の判断はわたくしには到底首肯し難いところである。
すなわち、以上の理由により論旨第二点は結局理由があり、原判決には論旨主張
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の判断遺脱、理由不備乃至審理不尽の違法があり、破棄差戻しを免れないものと思
料する。
そして、民訴特例法(多数意見判示の昭和二五年法律第一三八号)所定の上告理
由に正面から該当しなくても、本件の如く事案構成の基本となる事実関係及び法律
関係の問題については「審理不尽または理由不備」等の理由をもつて原判決破棄の
挙に出でたことは、右特例法実施当時の当裁判所判例に幾多見るところである。さ
れば本件につき右特例法によつて(本件は右特例法の適用ある事件ではあるが)排
斥した多数意見の本判決は、この点においてもわたくしの同意し難いところである。
裁判官谷村唯一郎は退官につき評議に関与しない。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 池 田 克
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